数息観のすすめ②

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              数息観の効果について

 腹が立ったら、口に出して罵ったり手をあげて実行に移ったりする前に、自分の息を黙って三遍数えてみよ、ということがよく申されますが、これは確かに効果のあることで、大概のことなら、これで腹など立てるのはばかばかしくなってしまいます。

 これは一つの心気転換法に過ぎないのですが、それでさえ大した効果のあることは、実験してごらんになればすぐわかることです。

 ましていわんや数息観は、一時的の転換法ではありません。根本から心身の調整をはかる修養法なのですから、これをやれば心身は常に安静で、つまらぬことに興奮したり、とっさの場合に度を失ったり、あわてて思わぬ怪我をしたりするようなことはなくなります。

 つまり機に臨み変に応じて、落ちついて適当な処置をとることができるのですから、その効果のすばらしいことは、思い半ばに過ぐるものがあるでしょう。

 しかし、そういった効果を抽象的に吹聴するばかりでは、にわかに信じられない方もおありでしょうから、少しくその実例を挙げてみましょう。

 第一に心身の安静という面から申しますと、興奮したりあわてたりしないために、その人のもつ実力を遺憾なく発揮することができます。

 これは野球のお話ですが、私の知人にS という北九州のある大会社に勤めていた人があります。S さんはその会社の野球部長をやっていましたが、そのチームは予選では度々北九州の代表になるのですが、どうもいざ鎌倉となると惜敗してしまうのです。

 これは選手たちが晴れの場所に出ると、平素の実力を発揮できなくなるのが大きな原因だと私は察しましたので、ある時S さんに、選手たちに数息観をやらせてみたらどうか、と勧めたことがありました。S さんも少しは禅の修行をやっていた人ですから、それから自分が先頭になって、合宿所で選手達と数息観をやったわけです。ところがどうでしょう、その年には見事に全国大会で優勝の栄冠を獲得することができたのです。

 これは数息観ばかりのせいでもありますまいが、とにかく実力を充分に発揮できたということが、あずかって大きな力があったということは言えると思います。

 次に、これも心身の安静の結果だと思いますが、不眠症が奇妙になおることです。不眠症にも、いろいろ原因がありましょうし、そのどれもがなおるとはいえますまいが、心配ごとで気持がたかぶったり、過労のため神経衰弱になったりして、眠れない眠れないとこぼしている人がよくおります。

 そんな人なら、数息観さえ実行すれば、必ずよく眠れます。そんな実例ならいくらでもありますが、まれには効果があがらないとぼやく人がいます。そんな筈はないとよくよくきいてみますと、半信半疑であまり熱心に実行しない人に限られています。

 私の大先輩に、U という下谷のある病院の副院長をしていた人がありました。この人は不眠症の患者には、こういう逆説法をしておいて、それから数息観をすすめ効果をあげていました。その逆説法というのは、“ 眠らなきゃならないために、人は一生の半分を無駄に過ごしている。それを眠れないとは結構な話じゃないか。俺もそんな結構な病気にかかったら、眠ってやらないんだがなア” というのです。

 これは多くの人々が眠ろう眠ろうとあせるから、かえって眠れないという心理を逆用したものでしょうが、この先輩は催眠剤を絶対に与えずに、ひたすら数息観をすすめていました。

 私はそんな逆説法はしませんが、こんなふうにおすすめしています。“ 眠れないとはお困りでしょう。でも、ご病気とあれば仕方がありませんね。私は医者ではないから不眠症をなおすことはできませんが、せめてあなたの身体が保つように助言させていただきたいと思います。

 それには数息観をおすすめする次第です。数息観は心身を安静にする第一の方法です。勿論、熟睡するにこしたことはありませんが、それがおできにならないとしたら、せめて数息観をやってごらんなさい。夢をみながら浅い眠りをとるよりは、ずっと心身の疲労が回復して、翌朝はきっと爽快をおぼえるに違いありません。

 もっとも数息観をやっているうちに眠ってしまったのならば、それでもよろしいですがね” と。これを聞いて実行された方は、やがて朗らかな顔色をして、感謝にこられます。現に小倉のNというお医者さんも、数息観が不眠症に効果があるばかりでなく、食欲を増し便秘をなおす上にも、大いに力があることを力説しておられます。
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